(本記事は2019/12/28に書かれた日記を一部改変したものです)
タンザニアに入国しようとすると
「イエローカードはあるか」
と聞かれた。
アフリカに来るのは二度目であり、一度目はケニアであった。そのお隣タンザニアには、韓国、タイ、ナイロビを経由してようやくたどり着いたのだが、イエローカードが必要なんて聞いていなかった。
イエローカードというのは、黄熱病のワクチンを打ったことを示すカードであり、入国するのにはそれが必要だと言うのだ。
以前ケニアに渡航するにあたって、取得しようとしたこともあったのだが、その際は、ケニアがイエローカード必須の国ではないということもあって、結局病院でワクチンを受けることは出来なかった。
「いや、持ってないですけど」
「じゃあ、ここで待ってて」
そう言うと入国審査のおじさんは、他の旅行者の審査に行ってしまった。
10時間以上の長旅をしてきて、入国できませんとなるのは面倒だ。何より学会に参加できなくなる。
「50ドル払えば入国できるよ」
戻ってきた入国審査おじさんは、私を別室に連れて行きこう言った。
なんじゃそりゃ
金を払えば入国できるというのは、完全に足元を見られているような気がしないでもないが、それで入国できるなら致し方ない。
「じゃあ、50ドル払います」
「OK、じゃあこっちで注射打つから」
え、え、え?
ここでワクチン打つの?
50ドルってそういうこと?
こわい
今年はほぼ毎月海外に行っていたが、これほど怖い体験はなかった。これまでが如何に守られた旅だったかということを再確認する。
「一旦ボスと相談させて下さい」
部屋を出て、外で書類の記入を行っていた先生に相談する。
タイで合流し、ここまで一緒に同行してきた先生は、何度もアフリカを訪れており、イエローカードも持っていた。
「え?まじで?ここで注射すんの?」
先生も私と同じ反応である。
「大丈夫ですかね?」
「まあ、大丈夫だろ」
軽い
もし副作用とか出たらどうするんだ
日本みたいに気軽に病院には行けないんだぞ
しかし、背に腹は変えられない
入国できないのなら仕方ない
「注射お願いします」
入国審査おじさんのところに戻り、50ドルを渡してお願いする。
「じゃあ、この書類にサインして、こっちの部屋に来て」
この謎の英語の書類にサインするというのも恐ろしい、本当に大丈夫なのだろうか。
「はい、じゃあ今から注射しますんで、腕まくって下さい」
え、え、入国審査おじさん、あなたが注射するの?医者なの?大丈夫?
「これは、あなたを守るための注射だから、大丈夫、大丈夫」
いや、ワクチンの重要性は理解しているけども、その無造作に棚に置かれたワクチンを、さっきまで入国審査していたおじさんに打たれるのがこわいのです。
しかし、もはやどうすることもできず、私は注射を受けたのである。
「何か気をつけることはありますか?お酒を飲んだらいけないとか」
私は注射された箇所を軽く抑え、不安そうに入国審査おじさんに聞いた。
「んー、よくわかんないけど、時間が経てばたぶん大丈夫」
よくわからないじゃ困るんだよ
そりゃ私だって、まさか一生お酒飲めない体になったとは思ってないよ。そりゃ時間が経てば大丈夫でしょうよ。
しかしこれ以上の質問は逆に不安になるだけだと思い、とりあえずイエローカードを受け取った私は先生のところに戻った。
「ラッキーだったな、日本だったら50ドル以上するぞ」
先生は笑顔でこう言ったが、なおさら怖い、私が受けたのは本当にワクチンだったのだろうか。
今となっては、もう確かめる術もない。