「しばらく海外(英語圏)に行ってました」
という話をしたときに一番困るのは
「え、じゃあ何か英語で喋ってみてよw」
という反応である。
まず前提として、海外に行く理由は人それぞれだ。観光を楽しむ人もいれば、仕事や勉強のために行く人もいるだろう。そこで得られた経験は代えがたいものであり、一生の財産になる人もいるに違いない。したがって、英語が話せるかどうかというのは、あくまで副次的なものであり、上記のような反応は、何か関係のないテストが急に始まったような気がして居心地が良くない*1。
「富士山に行ってきた」という話をしたときに「え、じゃあ足腰強いんだ、スクワットやってみてよw」と言われるくらいの意味の分からなさがある。
もちろん、英語が話せなくて、特にこだわりもないのであれば正直にそう言えばいい
「いやそれが、話せなくても何とかなってさ」
といって、どうやって海外を切り抜けたかを面白く語れば良いのだ。問題は、それなりに努力して英語を勉強してきたという人たちである。彼らは決して短くない時間を英語の学習に投じている。渡航の目的が英語学習ではなかったにしても、ここで「話せない」と開き直ってしまうのは、自分で自分の努力を否定するような感じがして気がひける。
しかし、何の対策も考えずに、「英語喋ってみてよw」に応えてしまうと、十中八九ろくなことにはならない。その理由は、この問いかけが持つ呪いのごとき厄介さにある。聞いた本人も別に悪気があったわけではないのだろう。単に最初に気になったのがそこだったというだけだ。しかし、この返答に間違えてしまえば、その場には微妙な空気が流れ、悔しい思いをし、本当に話したかった海外で得た経験の話をするどころではなくなってしまうのだ。
努力してきたのだ、せっかくなら「すごい!!」と言われたいではないか。
今回は、これが如何に面倒な問題なのかの解説し、そして「すごい!!」と言われるためにはどうしたらよいかを紹介する。
本記事の内容は至って不真面目だ。冒頭では意識の高そうなことも言っていたが、要は英語を使って「すごい!!」と言われたいという不純に満ちたモチベーションである。こんなものを読んでも英語の能力は上がらないので、真面目に英語を勉強したい人は退出することをおすすめする。
何がそんなに面倒なのか
「大して英語が話せないから面倒なの?」
と思う人もいるかもしれない。
実際私は英語がそんなに得意ではないので*2、そもそも話すこと自体が困りごとではあるのだが、面倒さのポイントではそこではなく、仮にそこそこ話せたとしても、これは結構面倒な問題なのである。
とっさに出てくる文章の貧弱さ
何故面倒なのかをイメージしてもらうために、次のような場面を考えてみよう。
この記事を読んでいる人の多くは日本人で、そうでないにしても、それなりに日本語が堪能な人間だと思われるが、もし日本に興味のある外国人に
「え、日本語話せるの?何か喋ってみてよw」
と言われたら何を話すだろうか?
特に準備していなければ
「え、こんにちは、いい天気ですね?」
とか
「えーっと、こんにちは、私は〇〇です...」
とかそんなことを言ってしまう人が大半なのではないだろうか?
しかしだ、そんな日本語を話したところで
「え?そんなもん?」
みたいな反応がない返ってくるに決まっているのだ。
つまり、この面倒さの根本には "何を話したら良いのかが分からない" という英語の能力以前の問題が存在するのである。
特に日本人は、義務教育で少なからず英語を勉強しているため、上記のようなとっさに思いつく簡単な文章を英語にしたところで
「いや、こっちもそのくらい言えるけど?」
となってしまうのだ。
挙げ句の果には「海外に行っておいてその程度?w」みたいな、訳のわからないいちゃもんをつけられてしまい、自分の海外経験そのものを否定されるような悔しい思いをするはめになる。
単なる準備はむしろ逆効果
ここまで読んだ人の中には
「じゃあ予め適当な文章を考えておいたら?」
と思った人もいるだろう。
しかし、実際のところこれはあまりうまく行かない。何故なら、覚えておいた文章を急に発したとしても、圧倒的"準備感" が出るだけだからである。それでは暗記能力を披露しているに過ぎない。「がんばって覚えたんだな」と思われるのが関の山である。
英語に慣れすぎている日本人
日本人は義務教育で英語を勉強しているという話をしたが、日本人が英語に触れる機会はそれだけではない。
映画や音楽といったエンタメで英語を耳にすることも多いし、街なかのポスターや平積みの雑誌などには英単語がふんだんに使われている。それらの意味する内容は分かっていなくとも「英語ってこんな感じだよね」という感覚が、日本人の中には形成されているのである。そのせいで、日本人は先程の例のような簡単な英文ではいまいち驚いてはくれないし、また何故か発音についてはめちゃくちゃに厳しい目を向けてくる。
これがもし、中国語やドイツ語などのような「聞いたことはあるがよく知らない言語」であれば話は別である。先程のような簡単な文章でも、その異質さから「おぉ」となってくれるに違いない*3。
つまり、この面倒さの一旦は、相手が "英語に慣れすぎている日本人" であるという分の悪さにもあるのである。
どう対処すれば良いのか
それではいよいよこの対処方法をお話することにしよう。
最初に断っておくが、これから紹介するのは、怠惰な私がたどり着いたインチキ紛いの小手先のテクニックであり、一歩間違えば非常に胡散臭い印象を与えてしまう諸刃の剣である。その点を承知した上で、取り扱いには十分注意して欲しい。
対処方法① : 特定フレーズの発音を極める
これまでの話と矛盾しているように思うかも知れないが、ここで提案するのは「フレーズを用意しておく」というものである。しかし準備するのは文章だけではなく、発音もセットで準備する必要がある。
単に文章を用意しておくことの何が問題だったかと言えば、それがただの暗記であり、覚えれば誰でもできるものだったからだ。そこで、暗記ではどうにもならない技能の方でも入念な準備を行い、それを披露するのである。この世の全ての英単語について、その発音を完璧にする必要はない。何フレーズかだけ入念に練習しておけば良い。そしてこのフレーズは、「This is a pen.」のように日本人なら概ね皆知っているようなものが望ましい。あるいは、日本人が発音を苦手とする「water」とか「happy birthday」とか、そんなほとんど単語だけでも良い。つまり、聞き手が「何を言っているのか意味は分かるが発音が良すぎて真似できない」と思える状況を作るのである。
実際、他人の発したたったワンフレーズの英語を聞いただけで「あ、この人英語話せるんだ」と思ってしまうことは多い。
また実際のところ、この方法を使う際に発音が完璧である必要はないでのある。日本人は発音に厳しいという話をしたが、それは必ずしも発音が分かっていることを意味しない*4。多くの人が感じる"英語らしさ"に到達できるレベルであれば良いのである。
これを成功させるには、もうひたすら練習するしかない。まずはフレーズを決め、Youtubeなどで正しい発音を聞き、それを繰り返し真似して、ネイティブに確認してもらう。ネイティブと話せる環境になければ、発音をチェックしてくれるアプリがいくつかあるので、それを利用する。私の場合は、とにかくたくさん話して英語っぽさを習得しようと思っていたので、森沢洋介さんの出している音読パッケージ(初級と中級)をやったりしていた。
対処方法② : 相手の日本語を英訳する
これは文字通り、相手の日本語をその場で英訳するというものであり、私の一押しの方法である。
つまり、
「え、じゃあ何か英語で喋ってみてよw」
と言われたら
「じゃあ英訳するから何か日本語の文章言って」
と返し、その後相手が言ってきた文章を英語で言ってあげれば良いのである。
これは一見高度な技に見えるため、難しいと思うかも知れないが、安心して欲しい。どうせ相手も大した文章は言ってこないのだ。
最初に話したように、この面倒さの根本には、そもそもとっさに出てくる文章が貧弱であるという英語以前の問題があったわけだが、それは相手も同じである。ここではそれを逆手にとり、相手の提案した簡単な文章を英語に訳そうと言うわけだ。これであれば、先程見たような「いや、こっちもそのくらい言えるけど?」という批判は飛んでこない。何故なら、その文章を寄越したのは、そもそも相手の方だからである。むしろ相手は、瞬時に英語にするという瞬発力を評価してくれる。細かい文法は気にする必要はない、勢いで押し通す度量が必要である。
この方法の練習をするためには、常日頃、身の回りのことを英語で何というかを考えるようにすれば良い。自分のしている動作を英語で言ってみたり、とりあえず目に入ったものを英語で言ってみたりするのである。実際に相手に日本語の文章を言ってもらうときも、相手は自分の動作や目に入ったものから文章を作成する可能性が高いので、これは非常に有用な練習方法である。あるいは、自分の好きな歌詞をワンフレーズずつ訳してみるというのも割と楽しい。歌詞であれば、自分の貧弱な作文能力に囚われることなく、幅広い例文が大量に得られるのである。もっと偏りのない例文が欲しければ、同じく森沢洋介さんの出している瞬間英作トレーニングのシリーズが非常に便利である。
さいごに
留学経験のある友人や、帰国子女の知り合いなども、この「英語喋ってみてよw」の呪いを受けたことがあるらしい。どうやら、この呪いの効力はその人の英語能力とはあまり相関がないようである。
日本中の似たような悩みを持つ人の参考になればと思う。