PCで苔を育てる人

自作シミュレーションゲームPraparatを作っています。 人工生命をシミュレーションするゲームです。https://www.nicovideo.jp/watch/sm41192001

自分の作ったものに少しだけ胸を張れる理由

 高校生のとき、先生が授業中に「ベクトルには足し算や引き算はあるけど、掛け算は定義されてない」なんてことを呟いた。その先生の意図は今となってはもう分からないけど、ともかく当時の自分は、「じゃあ自分で定義してみるか」なんて思って、色々考えて2つのベクトルA, Bの積を、|A||B|sinθと定義したらいいんじゃないかと思い至った(θはなす角)。その頃、先生に提出する数行程度の日記みたいなものがあって、さっそくそこにこの定義の話を書いて返事を楽しみにしていたら、先生から「何の話ですか?」とだけコメントがついて返ってきた。

 定義の欠点を指摘される訳でもなく、ましてや、話が広がる訳でもなく、単に先生がそのことを忘れてしまっているというのが、そのときは、何というか恥ずかしくて、言うなれば、赤の他人にいきなり自作の小説を披露してしまったような、そんなバツの悪さを覚えて、本当は日記をくしゃくしゃに丸めて投げ捨てたかったけど、それは冊子になってたので、諦めてただページを閉じて忘れることにした。

 でも、忘れようと思って忘れるのは全然簡単なことじゃなくて、というか普通に無理な話で、せめて誰かとこれについてあれこれ話し合ってみたくなって、「ベクトル同士の掛け算を考えてみたんだけどさ…」なんて気持ちの悪い会話を聞いてくれそうな友達に声をかけた。

 そいつは、笑いもせず、かと言って変なやつを見る目をする訳でもなく、渡したノートをじっと見て、「これは外積*1だよ、自分で考えたの?」と言った。「いや、すでにあるんかい」というのが最初に思ったことだったが、それ以上に、ちゃんと話を聞いてくれたのが嬉しかった。

 そいつは、自分なんかよりも頭が良くて、結局その後、良い大学の数学科に行ったようなやつで、普段から難しそうな本を読んでるのだから、自分の話すことなんて幼稚に聞こえるに違いないのに、それでも一番まじめに話を聞いてくれるやつだった。

 自分は、小さい頃から何かを作るのが好きで、それは今でも続いてるけど、作ったものを人に見せるときは恥ずかしいし緊張する。そして、「いやそんな大したもんじゃないんだけどさ」なんて予防線を張ろうとするんだけど、その度に、あいつが真面目に自分のノートを見つめているのを思い出して、「何で自分が自分の作品をバカにしてるんだ?」とか思ったりして、少しだけ胸を張れるようになる。

*1:実際の外積には、これにA, Bに垂直な単位ベクトルがかかります。